春陰は戦帽いろのカナリヤよ
近よれば風が遠のく茂りの灯
滅ぶわたしと昆虫のガーゼぐるみ
セルを着し体内に雲もみあうか
もつれどおしの炎を煽ぐ蹌踉館
雛納う陽のてのひらの此の世の剣
遠きほど沖うつくしき烏貝
水母みてきてはらはらはずす耳飾り
風にメモのこしてある夏鏡全開で
海からの電話薄暑の黄鉛筆
わたしがきて・海猫・断章・水銀灯
藤房やあまたの穴が身を回り
次の波或いは藤のひかりかな
シクラメン鞭うたれたる女かも
ミロ展出た烈風が髪型つくってゆく
雪高く杉を落ちくると耳語きぬ
独活白しすでに男の子を生んで
遠い青嶺から昏れてゆく匙磨く
雪ばれの月夜を鳥の名の列車
初時雨しぐるる記憶踏みきたる
鉄扉押すてのひら素顔の春がある
風くれば前髪すでに樹氷林
森の奥の磁気はらむベル二月尽
消した燈に白紙の明り雛まつり
木賊原まっさを地図の山現われ
子の首筋鳥めく国の桃あらう
空に湧く白木蓮と云う鳥また鳥
水芭蕉むかしむかしの名刺たち
ピアノ一打す音のない天使魚の騒ぎ
ひぐらしの最果て石鹸舞いしずむ
芹の中散華散華と齢失せ
海見ゆる坂は点灯夕霧忌
一抹の謀叛気あおき芹きざむ
残夢ざんむ孔雀が羽根をひろげだす
秋の螢やさしく降り積めよ
暗緑色孔雀は戦車曳いてくる
秋風が亜鉛鍍金のあなたにする
木の盥乾いてからの梨のはな
満月の鳩のねむりはつぼのよう
鳥めく子の首筋ぬくし桃洗う
祭笛遠のく膝を詩書すべり
日溜りに荒縄すててある晩秋
海光にゆれれば薄紗の花の芥子
言い尽くして馬鈴薯になった私
水中に皿しづめさくら吹雪の川
ひびわれて銀いろガラス梅日向
石階寒しわがかげわが身より先に
ははのさとまえにうしろに落椿
魚を干し骨やわらかく眠る村
冬の浜ガラス捨て場は焚火あと
つららまたうすゆきかむり刃物店
桜枯れ日の斑のゆらめき蛇口から
凍てし蝶日だまりを誰にも言わぬ
日だまりの壁画に淡黄の馬がいて
馬の耳二つみてきてエンドウ煮る
石の肌さくらを受けしより襤褸
昏いおとこの傘さしてみる祭笛
ひとを憎む夜の白足袋をほそくはき
蕗の塔ネアンデルタールの川ふもと
そのさきに男いそうな苔の花
モーテル燈る鳥の目付きの人ら溜め
乙女らに黄柿まぶしい神父容れ
首ほそきビビアン・リーの薄暑かな
一葉忌耳輪に氷雨の語りべたち
蠍座の話などする自在な脚
花のない部屋に秒音と卵とカギ
さそり座の知らざる夫の遠い幼年
冬日射しゆり科に属す女が来
鏡の中よぎるあなたの秋思に遇い
裏口五月ヒマラヤ杉は風の海
厄日近しひらき秋刀魚の二つの貌
足下の墜死の愛人薔薇剪って
「ラディゲの死」やぎんなんの花下垂
汽車が着いてもさびしい枯野の日のひかり
月のぶどう告げられぬこと翔つごとし
生涯長女白芍薬の向きむきに
木莵やねむたき髪がふくらみぬ
谿の家は木製引出し秋晴天
匙光る波の陰より昏れはじまる
火となる鉄歓喜のごとく雪のとぶ
塗椀のふくらみ洗う良夜かな
爽やかに竝ぶ灯みえて母居る町
恋のように霧の落差の頸飾り
海へ向く白百合どれもかるすぎる
かなしめば冬の辛夷の男結び
新樹かぜ獣を食べたる胃の痒く
冬深しジョーゼット・スカーフめく疲れ
乳房軟し白馬に蝶のきては翔ち
坂に咲く集監白い一騎で風
幾語炎えモデルシップの秋淋漓
一生過ぎるんですねえ ラ・山茶花
金の目のはるかな母を蛍売り
罌粟の黄の非常階段風さわぐ
楢林雪ひらひらと露人の歌
夏始まる青い造花を厨に吊り
日暮れ庖丁の全長で聞く祭笛
西日が主役波立つ鏡の中の沖