『私の、甘く悲しい一日』(抄)・『夢ぽけっと』(抄)

『私の、甘く悲しい一日』より

 

一人の夕食

脈絡もない

淋しさを

崩す

冷や奴

 

静けさは

一輪のコスモスさえ揺らせないのに

あなたのいない静けさは

私の心を

こんなに揺らしている

 

アンソロジー『夢ぽけっと』より

反抗期

きみの

全身から

青く光っている

静電気

夏の

透明な

夜明けのように

冬の

尖った

夜更けのように

まっすぐで

かたくなで

いま

きみの中では

新しいきみが成熟している

いらっしゃい

旅の先々での

あたたかい一言

「おこしやす」

「よおきたなぜえ」

「めんそーれ」

「いきやっしゃい」

に出迎えられて

私は ほっと

靴ひもを ほどく

ほつれた心も

ゆっくり ほどく

夏の夜

5時の鐘が鳴っても

辺りはまだ明るく

ひたすら暑く

蝉の声が

いくつも重なって

ただ響く

そしてついに街は

明るさに耐えかね

昼から夜へと

一気に傾斜してゆく

すっぽり闇に包まれても

なお ひたすら暑く

日常と非日常の間を

行きつ戻りつ

あちらでも こちらでも

うつらうつらと

夏の夜に舟をこぐ

三日月

うっとりと見つめた三日月が

対面の空に

とうめいになって浮かんでいる

磁石もなく

海図もなく

道しるべのない空を

擢(オール)で漕いで進んだのだろうか

空のすみずみには

月の残像が残って

朝の空は

やさしさが満ちあふれている

歩きだすべぇ

道に

蝉が

仰向けになり

果てている

悔いのないよう

思いっきり

泣いたかい

実は ボクも

遠い田舎を思って

ひとり泣く

もう土には戻れない

せつなさに たまらず泣く

そして言うんだ

「歩きだすべぇ」

歩いては 泣き

泣いては 歩きだす

悔いのないように