われ山上に立つ

かくてわれ山上に立ち、

生命と沈黙の勇者……勝ち誇り、

空にまなこをむけ、突立ちあがり、

没せんとする太陽を見て微笑み、麗しく悲しき告別を歌ふ。

 

ゆふべは神秘にてわれをとり巻き、

その香気は伝統の如くかんばし、

ああ、われにしのび寄る諸々の思想は、

譬ふれば、外国とつくに微風かぜの如く或は蛇の如し。

 

しわが山上の姿を見なば、

静に飛ばんとする詩神にて、

われに黄金の快調あり気高き風貌ありといふなるべし。

げに、われは都会のつるぎを嫌ひ、

その狂暴なる威嚇をののしつて立つものなり。

 

太陽は重も重もしくはるかに沈み、

甘き誘惑と暗明の手にわれを残しゆく。

夕はながながとその影を払つて西方へと過ぎ、

西方へ過ぎゆく夕と共に、樹木の長き影は消ゆる……

如何に無言に沈黙の歌はわが魂にしのび込まんとするよ。

われは、蟋蟀の間、

星が歌に響かする幽玄のなかに依然として立ち、

如何に柔にその身が夕に鎔けゆくかを見んとするなり。

 

月は徐々として上る……わが影は

夢の如き夢の逍遙を地上に描く。

空に微笑み無言の歓迎を述ぶる一箇の人間あり、

そはわれにあらざるわれなりと知り給へ。