冬の蝶・農夫

  冬の蝶

灰色深き冬空の

見る/\雨のこぼれきて

はだへに告ぐる寒き日を

覚束なくも飛ぶ蝶よ。

春は菫の花に泣き

夏は小百合の香に酔ひて

闌なりしその夢は

萩吹く風にさめたるか。

つらく悲く淋くて

われも泣きたきこの雨よ

なが脆くして美しき

羽をうたするになど耐へん。

夕くれさればこの雨は

やがて雪ともかはるべし

さらば凍えんなが命、

それとも知らで飛ぶことか。

長らふまゝに吹きつのる

嵐烈しき世と知らば

紅葉がもとから

埋めたらんに口惜しく。

われもこの世は佗び果てゝ

暫しは歌にかくるれど

まださめやらぬ胸の血ぞ

来ても縋れや冬の蝶。

   ◯

石の上に白き胡蝶の凍えたり。

  農 夫

帰牛きぎうの群にまじりつゝ

帰る農夫の簑のに、

胡桃の葉散る村外れ、

秋の葉黄ばむ森の上。

牛と無心に野辺に出で、

牛と悠々家を指す、

あゝ生涯はたひらかの、

村のこみちの如くなり。

美なる自然のふところに、

かき抱かるゝ幼子をさなごと、

言はゞや言はん、聞けうたふ、

罪なき恋の一節ひとふしは、

彼等の父も其父も、

ここにとなへし調なり。