花卉(抄)

   神の白鳥

神さまが、膝でスワンを慈しむ。

御手にふれたこの抜け羽毛

ぼくは冷たい歌を思ひ出す、

ねぐらをさがす小鳥のやうに。

ぼくはあなたの毛皮のなかへ走りこむ、

ストーヴに、こゞえた両手を翳すために。

ぼくはあなたのスヱーター・ポケットにもぐりこむ、

団欒の、明るいピアノを聴くために。

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   睡れる幸福

黎明あけがた、あなたはきつと、機織音でぼくの夢を揺ぶる。

あなたの震はす指先に、露に濡れそぼつたスワン・リヴア・デイジイが咲いてゐる。

をさの中で、

幻の星条が消えたり燈つたりする。

ぼくは渺かに、織りかけの薄絹うすものを見る。

淡彩のシヨールが極の方へ靡いてゐる。

あなたは何時の日か、黙つてぼくに指ざしたママ

――幸福はあすこに睡つてゐる。と……

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   極 光

あなたは三角洲の葦間から、

流暢な各国語でぼくに喋りかける。

ぼくはいちいちそれを懸命に、

速記する、翻訳する。

――アノ橋ノ袂ニ、アノ橋ノアチラガハノ袂ニハ……

――誰カガムカフ岸ニ、誰モムカウママ岸ニハ……

長い鉄橋が半分夕陽の中へ折れ込んでゐる。

渡りかければ、ぼくも光のなかへ隕ち込むだらう。幸福をかゝへて、不幸をいだいて――

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