自由党を祭る文

 歳は庚子(=かのえね 明治三十三年 1900)に在り八月某夜、金風淅瀝せきれきとして露白く天高きの時、一星忽焉こつえんとして墜ちて声あり、嗚呼あゝ自由党死すしかうしてその光栄ある歴史は全く抹殺されぬ

 嗚呼、汝自由党の事、吾人ごじんこれを言ふに忍びんや、想ふ二十余年前、専制抑圧の惨毒滔々四海に横流し、維新中興の宏謨くわうぼハ正に大頓挫をきたすの時にあたつて、祖宗在天の霊は赫として汝自由党を大地にくだして、その呱々こゝの声をげ其圓々の光を放たしめたりき。而して汝の父母ハ実に我乾坤に磅はく(=ほうはく)せる自由平等の正気なりき、実に世界を振とうせる文明進歩の大潮流なりき。

 こゝを以て汝自由党が自由平等の為に戦ひ、文明進歩の為め闘ふや。義を見て進み正を踏で懼れず、千挫屈せず百折撓まず、凛乎たる意気精神、真に秋霜烈日の概ありき、而して今いづくに在る

 汝自由党の起るや、政府の圧抑はますます甚しく迫害はいよいよ急也。言論は箝制かんせいせられたり、集会は禁止せられたり、請願は防止せられたり、しかして捕縛、而して放逐、而して牢獄、而して絞頚台。而も汝の鼎钁ていかくを見る飴の如く、幾万の財産を蕩尽して悔ゐざるや、あに是れ汝が一片の理想信仰の牢として千古かはべからざる者ありしが為にあらずや。而して今いづくに在る。  以下略