あなたとおなじ風に吹かれた

   夏 夜

 

夕涼みに と

 

わたしたちは夜を歩いた

淡い満月が出ていた

道の端には待宵草が

 

あのひとが手折ってくれたとき

あ この甘さだわ

昏れていく山道に黄いろい灯りを

競って咲いた 行く手を照らした

あのころ なにもかもがはじまりだった

歳月さえも

 

花ははんなりと小ぶりで

月とまるで同じだった

月はいっそうおだやかで

かたわらのひとでもあった

 

   内部の風景

 

いちばんしまいのあなたの呼吸いき

わたしの内奥うちに入っていった

わたしの中枢おおもと

さびしい底のもっと底

 

いちめんの草紅葉のうえ

風のゆくのがみえる

あなただわ

わたしをゆらすあなただわ

 

   これからは

 

黒い身じたくであのひとはいま

車にのりこむ

そのとき あのひとを抱いた

 

わたしのなかに入っていてね

そしたら死なない

わたしといっしょに生きるのよ

 

立ったままだったけれど

あのひとは嬉しそうだった

 

ドアを閉める音がして

とまとの枝がわずかにゆれた

かおりが青くわたしを流れた

 

ゆめのなかだったけれど

あのひとにもういちど伝えた

わたしといっしょに生きるのよ

   女郎花

 

やわらかなひかりがみえる ひかりは

あつめられてひと粒になり ひと群れになり

咲きだした五弁はなびらは もう数えきれない

 

あるいは花の背後からひかりは湧いているのではないか

なつかしさのようなところから こうしていると

ひかりの呼吸になっていく

 

わたしのいまがゆるやかになる

みちたりてくる

真午のしずかがわたしをあふれ

女郎花のかたちがゆれる