詩集『時の壁を超えて』から

同胞Ⅱ

悠久の歴史を顧みて
偉大なその遺産を肌で感じとる

何度も心に描いたあの荒涼たる原風景
その中に
私は今 立っている

心をかき乱され 生きるすべを失い
魂を拉致された迷い人たち
それでも彼らは 憂愁の季節に背を向けず
感情の起伏にあわせて
時の流れに逆らってみる

私は自らの使命を感じ 彼らに訴える
己の位置を再確認せよ
そして 自らの権利を行使せよ と

万物の表象

幾つもの夜を経て
  幾つもの朝を迎える

時の流れの中で
  忘れ去られていく様々さまざまな事象

創世紀の時代からの道程に習い
  存在の不確かな可能性に賭けてみる

雨水を飲み干し
  ゆるやかにうねる大地にいだかれて

ただ一人無言のまま いつまでも
  我を忘れて立ち尽くす

永遠という名の夢を追い求めて――

Four Seasons

春には春の息吹きがある
夏には夏の熱気がある
秋には秋の香りがある
冬には冬の佇まいがある

季節ごとの空気を吸い込みながら
燃える思いを頭上に描いてみる

過ぎ去っていく喜びや哀しみはいつも
日常に埋没し
空気と溶けあって 流れていく
夢の覚めきらぬうちに
また次の夢へと心を動かし
吸いこんこだ空気とともに
未来へ向けて 走り出していく

或る情景

正午をまわったころ

大地の熱い息吹きにいだかれて
目を覚ますと
肌は微熱を帯びている

一組の男女が
遠く海辺のほうを散歩している

ぼんやりと辺りを見まわしながら
砂浜に足をおろしてみると
小さな海亀が這っている

地平線に降りたつ
宵の明星を待ちわびながら
高く燃えている太陽を仰ぎみて
溜息をひとつ ついてみる

森の中で

風が吹き抜けていく
その空間にこだまする
木霊たちの讃歌を聞きながら
森の木陰で休息していると
おしゃべりな妖精たちが噂をしはじめる
ひょっこりと顔をだす小鬼もいる

林檎の樹の下で愛をたしかめあう恋人たち
そのまわりを踊り飛びはねる小動物たち

そんなものを眺めながらひとときを過ごし
ふと周囲をみまわすと
既に夕闇があたりにせまっている

もう家路につかなくては と思いつつ
暮れなずむ森の佇まいには
立ち去りがたいものがある
自然の息吹きを胸いっぱいに吸いこんで
明日への活力としよう

詩集『夜空から』から

Poet Ⅱ

降り注ぐ光の中で交錯する
枝と枝の間から
現実という実をとって口にする

躍動することばの粒を
一つ一つ 拾いあつめて
置き去りにされた心の中にしまいこむ

枯渇した魂よ
蘇れ

広く深い波に呑まれた
魚のように
大海原を 泳ぎまわれ

Life

大海原を泳ぎまわる
なめらかな背をした動物たち

己の吐く息は
白い泡と化して
海に帰する動物たちの活力とともに
波に呑まれていく

幾層もの波の中に温存された
不思議な生命力のとりことなり

日の落ちるまで動物たちと戯れ
時の経つのを忘れていく

新生

夜空から舞いおりてきた
小さな天使から 啓示をうけ
星のまたたきに導かれて
歩いていくと

時を得て生まれたひとつの命が
私を待っていた

幸福な顔をして目覚めたばかりの
小さな命は
光に包まれ すべての時をとめてしまうほど
光輝いていた

笑いかけると 小さく呼応し
その笑みは
新しい時代の到来を暗示するものであった

時代の風

空中に絡まりあった力と力を握りしめて
時代の風をうけて 走れ
獅子のごとく 叫び吠えろ

断末魔が去ったあとの渇いた大地には
静寂な時が流れ

平和を標榜する民衆たちが
腕を組み 旗をふりながら

勝利の歌を声だかに歌いあげた

南国の一景

髪にゆれる花飾りをつけた
褐色の肌の女は呻いた

愛を失った子どもたちの虚ろな目が
女をとらえて離さなかった

無造作に行きかう人々を横目に
子どもたちは その場にじっと佇んでいた

何をねだるでもなく
何を訴えるでもなく

女はやっとの思いで歩み去った
子どもたちの姿は
生涯 女の脳襲から消えることはないだろう