はじめに
ミスをなくしたい。
これはビジネスパーソンに共通する課題ではないでしょうか。
「○○さんってミスが多いんですよ」、これが褒め言葉にはならないことを私たちは知っているからです。
会社に入ると、ひと通り仕事のやり方を教えてもらえます。でも、ミスのなくし方までは教えてもらえません。みんな試行錯誤しながら仕事をしているのが現状です。
ミスのない人は自分なりのテクニックを持っています。でも、「人に披露することでもないし」と謙遜したり、部下や後輩には「自分で失敗して身につけてほしい」と心を鬼にして教えない人が多いのです。
ミスをなくせば、幸運のサイクルが回りはじめます。
「○○さんはミスがない」と評価される。「○○さんなら任せて安心」と信頼される。
「○○さんに担当してもらいたい」と指名される。そうやって活躍するステージがどんどん広がっていくからです。
そのうえ、やり直しやムダな作業が減るので、残業だってせずに済みます。
一方、毎日がんばっているのに空回りしている人、なかなか結果が出せない人もいます。そのとき「気合いだ!」「がんばろう!」の意欲は大切ですが、とくに事務の仕事は根性論だけではうまくいきません。
私は日頃、ビジネスセミナーの講師をしています。そのテーマについて、原稿を書く機会も増えてきました。また小さな会社の経営者でもあります。
といっても経歴は地味で、学校を卒業してから保険会社に入社し、約10年間は定型業務やアシスタントをしていました。
「当時は優秀だったの?」と聞かれることがあるのですが、キッパリ「いいえ」と答えています。なぜなら「ケアレスミスが多い」「仕事ができない」「結婚して家に入った方が向いているのでは?」などと言われたことがあるからです。
でも今は違います。子供の頃の夢「物書きになりたい」、会社員の頃の夢「プロの講師になりたい」を、遅ればせながら叶えることができました。
やりたい仕事がいただけるようになったのは、弱点だったミスをなくすよう毎日積み重ねてきたからだと思います。今では、たくさんのミスに「ありがとう」を言いたい気分です。
同じような悩みを抱える人たちを見て、ミスをなくす一助になればと、自身のテクニックを本書に惜しみなく載せました。文章はおさえ気味にして、イラストや図解をたくさん入れています。勉強するというより、楽しみながら読んでほしいですし、「私も同じミスをする!」という章や項目を重点的にチェックしてもらってもいいでしょう。
あなたも1日も早くミスをなくして、チャンスをつかみましょう。
第1章 メール・ビジネス文書編
Tips 01 メールを書く前に作戦を立てる
メールを書くとき、伝えたいことの一部を忘れたまま送信してしまう。送信した後で忘れた用件に気づいて、もう1通送る。こんなミスが思い当たる人もいるでしょう。
なぜ用件を忘れてしまうのか。原因は2つ考えられます。
ひとつ目は、いきなり本文を書いていること、2つ目は、記憶に頼っていることです。
メール1通であっても準備が必要です。まずは、キーワードメモを作りましょう。
キーワードメモは、紙かメールの作成画面を使います。どちらにしても、まずは伝えたいことを箇条書きにしてください。
キーワードをすべで挙げたら、忘れている項目がないかを念入りにチェック! 問題がなければ、それからきちんとした文章に仕上げます。
つまり、「他に伝えることはなかったかな?」と記憶をたどる作業、文章化する作業を別々にするのです。「思い出しながら書く」方が、一見すると速いようですが、実は注意が散漫になりやすいのです。
「思い出す」と「書く」を切り離し、それぞれに集中することでミスを防ぎましょう。
Tips 02 長文メールは読んでもらえない
相手に届いているのに、きちんと読んでもらえないメールがあります。
その原因のひとつに、本文が長すぎることが挙げられます。ダラダラと続くお手紙風だったり、改行していなかったり、起承転結で結論が後回しだったり。そんなメールは読み飛ばされてしまうことがあります。
また、たくさんメールを受信する人は、すべてをじっくり読む時間がありません。そのため件名と送信者を見て大事なメールを選んだり、捨てたりしています。
つまり、「メールを送ったから読んでいるはず」と思い込むのは危険です。送ったメールが読まれなかったというミスは、送った方にも原因があるのです。
メールの分量は、スクロールしないで一度に画面に表示される程度におさえてください。さらに件名を見れば伝えたいことがわかるようにし、本文は結論を前へ持ってくるようにします。
また、文章だけでなく箇条書きを取り入れれば、ダンゼンわかりやすくなるのでお試しください。
Tips 03 添付ファイルは本文を書く前に
メールにファイルを添付するつもりだったのに、ウッカリ忘れてしまい再送しなければならない。誰もが一度は経験するミスかもしれません。でも1通のメールで済むのに2通送信するのは非効率です。
添付忘れの原因は何でしょうか。思うに、メール本文を先に書き上げるとホッとし、つい送信ボタンを押してしまうからでしょう。誤字脱字はチェックしたとしても、添付ファイルの有無は見落としやすいのです。
そこで、送るファイルがあれば本文を書く前に添付してください。メールの作成画面を上下で分けてとらえ、上部を入力し終えてから下部にある本文へと移りましょう。すると目線も画面の上から下へと自然に流れていくので、ミスが防げます。
さらに件名には「添付3」などファイルの総数を入れておくようにしましょう。数を書けば、送信前にセルフチェックができ、もらった相手はファイルがあるか、数に間違いがないかを瞬時にチェックできます。
Tips 04 相手の社名と名前は絶対に間違えない
お客様や取引先に文書やメールを書くとき、正式な社名や役職、名前が思い出せずに考え込むことはありませんか? うろ覚えが原因ですが、逆に固有名詞のすべてを暗記している人がいるとしたら不思議なくらいです。以前やりとりしたメールの検索や、名刺を探すのは意外と手間がかかるもの。何より間違いがあって、相手を不快にさせてはいけません。宛名を間違えないのは、最低限のマナーと心得ましょう。
宛名のミスを防ぐには、単語登録が役立ちます。
例えば「青空商事株式会社 営業部 満天一郎様」なら「@あお」などと登録します。登録の仕方は「@+社名の2文字」など、自分なりのルールを作って統一してください。
そして「単語登録リスト」を作り、都度更新しておきましょう。誰をどのように登録したかを記録しないと、あっという間に忘れてしまい、登録した作業がムダになってしまうからです。
また、社内文書・メールで、相手の役職を間違えたときに、いちいち謝ったりするのも時間のムダです。そこで了解を得て、「さん」で統一してしまうのも一案です。
Tips 05 休暇予定はメールの署名に入れる
休暇を取るとき、同僚には連絡をしても、社外の人に知らせる人は少ないようです。でも、取引先やお客様が、至急あなたに連絡を取りたいときはきっとあります。立場を変えて、自分が顧客のときを想像してみてください。相手から折り返しの電話やメールの返信がこないと「対応が遅い」とイライラすることはありませんか。もしくは「数日間不在にするなら、なんで事前に知らせてくれなかったの」と不満に思ったりします。
そう、お客様は自分の都合で連絡をしてきます。そして急いでいるのです。
そこで対策です。3日以上休む予定があるなら、事前に知らせておきましょう。タイミングは1カ月前くらいから。早くても問題はなく、ギリギリは避けてください。そうすれば先方も心づもりができるからです。
あなたが休暇を楽しめるように「ドタバタギリギリの頼みごとを減らそう」「締切日を遅らせよう」と、相手が配慮してくれるかもしれません。
一方、会社の休業期間。年末年始やお盆休みならホームページでの告知が一般的ですが、メールの署名に加えてもいいでしょう。ダブル効果でより伝わりやすくなります。
Tips 06 受信トレイのメールは5通まで
受信トレイにすべてのメールを並べておくと、優先順位がつけられず大事なメールを見落とすリスクがあります。画面をスクロールしないと現れないメールも見落としやすく、納期遅延などにつながります。
このようなミスを防ぐには、「受信トレイに5通まで」をルール化しましょう。方法はフォルダーによる管理ですが、日付や相手、案件など細かく分けすぎるとかえって非効率です。そこでシンプルに「処理済み」のフォルダーを作ってください。「返信する」「頼まれた資料を送る」などの対応したメールは、手動で「処理済み」に移動させます。
また、時間をかけずに処理できるメールが届いたときは、サクサク返信してしまいましょう。仕事は抱えるより手放せ! するとストレスも減るはずです。
「処理済み」フォルダーにあるメールは一定期間保管しておき、後から探すときは検索します。よって受信トレイに残るメールはペンディング案件だけ。やるべきことが目につきやすく、To Doリストも兼ねています。
スッキリ空になった受信トレイを見るのは、何とも爽快です。
Tips O7 時候の挨拶は「時下」で統一する
文書を時短で作成するなら、一度作った文書を保存し、必要筒所を書き換えて再利用する方法があります。でも、この方法は便利な反面、ケアレスミスをしやすいので注意が必要です。
よくあるのが、社外文書に入れる時候の挨拶のミス。「○○の候」は発信月によって異なるので、月が変われば書き換えなければなりません。この書き換えを忘れてしまうのです。
そこで、毎月形式的に送る書類であれば、通年使える「時下」に統一してしまいましょう。その分、大事な用件などに間違いがないか、重点的にチェックします。
また、頭語と結語の「前略」「草々」は、挨拶文を省略するときに使います。堅苦しい挨拶文を書かないのは楽ですが、正式な文書でお礼を伝えるときなどは、不向きです。目上の人や大切なお客様に使えば、相手の心証を害す場合もあるので、「拝啓」と「敬具」をキチンと入れてください。
形式的、事務的に送ればいい文書は効率化してミスをなくすように。心を届ける文書は省略をしないこと。つまり目的に応じて使い分けが必要ということです。
Tips O8 文書で書き換えるところは赤字にしておく
文書を再使用するとき、間違えやすいのは時候の挨拶だけではありません。他には、日付や数量、金額などの数字、相手の会社名・役職・氏名もミスしやすい箇所と言えます。
とくに日付は、作成した日と実際に発信する日が異なることが多いでしょう。例えば上司のチェックを待ってから、翌日発信する場合は、日付を変更しなければなりません。
書き換えのミスをなくすための秘策は、変更箇所を赤字にして保存することです。スペースにする方法もありますが、書式が崩れたり、必要な言葉を書き忘たり可能性があるため、赤字で目立たせておくといいでしょう。
そういえば以前、ある企業の研修を終えると礼状が届きました。人事部の方がわざわざ郵送してくれたのです。嬉しくなって読んだところ、最後の一文にミスを見つけてしまいました。「○○様のご活躍を祈念いたします」の○○に、自分でない人の名前が入っていたのです。その時点で使い回しとバレて、がっかりしました。
このようにせっかくの気遣いや労力を台無しにしてはもったいない! ぜひ赤字で自分に注意を促してみてください。