黒き玻璃の山脈、赤き血の滴
げせぬ鋭どき天のときの声
これらみな紫の異常になげく
夏の午後の一とき
薄紫、赤、黄は透明を伝染し
天地にみなぎりたり
硫黄泉は地底をつたふ
美しき湯気の香はする
この時太陽は血潮の「能」を舞ひ
この時童子等は大川に喜戯す
紫の渦巻きに
うつれる空に喜戯せり
黄金の童子等は赤く笑へり
一瞬にして食人びとにとらはるゝばかりの恐れ
おしかくし勇ましく大笑す
天と地とうつしし水に
げに金属の童子等は
怪しく焼けしその頬に
無窮の笑を帯ばしめつ水にとび入り
爬虫の如く戯むれつ
かくも眺めてわが胸は
薄青き珠玉の汗を宿し
この現象の惰さに全神経は
焦げはてゝじつとをのゝく
童子の腹赤く輝やく
五、六、七、美しき河水のそばに
おう赤き童子の群よ
太陽の祖先の如き赤さもて
真赤に童子は喜戯せり
黒き玻璃の山脈にほの赤き幻燈うつる
血の滴、低き天つたひてゆけば
天のときの声もものうく消えぬ
宝玉の如、ものみなは輝やけり
さんらんたる思ひかや我をとり
わが眼をして大川の浅き底をも
深き天遠くに舞へる太陽をも慕はしむるは。