―ノートルダムからエッフェルへ
今年も何人の若い日本人が休暇旅行でパリを訪れたろうか。パリでは、映画「ダ・ヴィンチ・コード」の舞台になったルーブル美術館を訪れるのもよし、ヴェルサイユ宮殿を見学するのもよい。しかしもし許される自由時間があれば、日本の若者たちにぜひセーヌ川にそってノートルダム寺院からエッフェル塔までの道を歩くことをお勧めする。若い足なら1時間くらいで散策することができる。それはかつて西田幾太郎京都大学教授(著書『善の研究』)が、京都の疏水に沿ってある“哲学の道”を歩きながら思索をめぐらしたように、若い柔軟な頭脳には、大いなる刺激を与えてくれるはずだ。
まずこのセーヌ川散歩をする前にヤフーでもグーグルでもいい日本ペンクラブ電子文藝館(http://www.japanpen.or.jp/e-bungeikan)を検索、画面が出てきたら森有正をクリック、著書『遥かなノートルダム』と『遠ざかるノートルダム』を読破して臨むことをお勧めする。
哲学者森有正氏は、戦後間もない昭和25年パリに留学。昭和28年には周囲の反対を押し切って東京大学助教授を退職し、第二次世界大戦後まだ日本人に対して悪感情の残る中パリに定住された。そしてフランス国立東洋語学校、パリ大学東洋学部での教鞭とパリ国際大学都市日本館館長を務められた。以後昭和56年パリで客死するまで滞在4半世紀、ヨーロッパ文明の象徴というべきノートルダム寺院と対峙し、思索の結晶としての珠玉の文章を日本に送ってこられた。それは中でも著書『遥かなノートルダム』と『遠ざかるノートルダム』に詳しい。
西洋とは何か、日本とは。珠玉の文章は、大いなる啓示を若い頭に与えてくれるはずだ。散歩の最後を締めるエッフェル塔近くには、白いパリ日本文化会館がスッと立っている。これほどの哲学の道はめったにない。